PL保険は何をカバーするのか。出店者に加入が求められる理由
2026.9.11 公開 執筆:合同会社セキレイ
行政イベントの募集要項には、「PL 保険(生産物賠償責任保険)に加入していること」「加入証の写しを添付すること」という条件がよく出てきます。民間のマルシェではあまり求められないので、初めて見た人は「何の保険?」となります。
この記事では、PL 保険が何をカバーし、何をカバーしないか、なぜ行政イベントが求めるのか、どう入るのかを整理します。保険の内容は商品ごとに違うので、加入するときは約款と保険会社の説明を確認してください。
PL保険とは:売った物が原因の事故を補償する
PL は Product Liability、製造物責任のことです。PL 保険は、自分が売った物や提供した物が原因で、お客さんがけがをしたり病気になったり、物が壊れたりしたときの損害賠償を補償します。
出店者にとって典型的なのは、次のような事故です。
- 提供した食べ物で食中毒が出た
- 食べ物に異物(金属片、プラスチック片)が入っていて、口の中を切った
- アレルギー表示が不十分で、アレルギー症状が出た
- 販売したアクセサリーの金具で、子どもがけがをした
- 販売したろうそくや雑貨が原因で、お客さんの家で火事や損傷が起きた
賠償金だけでなく、示談交渉の費用や訴訟費用も補償の対象になるのが一般的です。食中毒は一度出ると被害者が複数になり、治療費、休業損害、慰謝料と積み上がって、個人事業主が自力で払える額を超えることがあります。PL 保険は、その「万一」に備える保険です。
PL保険がカバーしないもの
ここが大事です。PL 保険は「売った物が原因」の事故だけを補償します。出店中に起きる事故の大半は、PL 保険の範囲外です。
- テントが風で飛んで、通行人にぶつかった
- 発電機のコードにお客さんがつまずいて転んだ
- 調理中の油がはねて、お客さんがやけどをした(提供した食べ物が原因ではない)
- キッチンカーのバックで、隣の出店者の什器を壊した
- 商品の陳列棚が倒れて、子どもがけがをした
これらは「施設賠償責任保険」や「業務遂行中の賠償責任」の領域です。多くの保険会社は、PL と施設賠償をセットにした「事業者向け賠償責任保険」として売っています。行政イベントの要項で「PL 保険」と書いてあっても、実際に出店者が入るべきなのは、このセットになったものです。
もう一つ、自分自身のけがや、自分の商品・車両・什器の損害も、賠償責任保険では補償されません。それは傷害保険や車両保険、動産保険の話です。
なぜ行政イベントは加入を求めるのか
理由は3つあります。
1. 主催者の保険では出店者の事故をカバーしないから 行政イベントの主催者(市や実行委員会)は、イベント全体に「イベント保険」や「行事保険」をかけていることが多い。しかしそれは、主催者の運営に起因する事故や、来場者のけがを補償するもので、出店者が売った物による事故は対象外か、対象でも出店者側に求償されます。出店者の事故は出店者が備えてください、というのが要項の趣旨です。
2. 事故のとき、被害者が確実に補償を受けられるようにするため 行政が関わるイベントで食中毒が出て、出店者が賠償できなかった場合、被害者は泣き寝入りになります。「市のイベントで食中毒になったのに補償されない」は、行政として避けたい事態です。出店者に保険加入を求めることで、被害者の補償を担保しています。
3. 出店者の「事業者としての体制」を確認するため 保険に入っている事業者は、許可も取り、衛生管理もしている可能性が高い。加入証の写しは、その確認の一つとして使われています。
保険料の目安と入り方
個人事業主やキッチンカー1台の事業者が入る賠償責任保険の保険料は、補償額や売上規模によりますが、年間で数千円から2万円程度が目安です。月にすれば1,000円前後で、出店料1回分より安い。「保険料が高いから入らない」という判断は、割に合いません。
入り方は、主に次の3つです。
- 保険会社・代理店の事業者向け賠償責任保険:飲食業、小売業といった業種で加入する。補償額(1事故あたり、期間中の総額)を選ぶ
- 業界団体・組合の団体保険:商工会議所・商工会の会員向け、キッチンカーの協会、クラフト作家の団体などが、団体割引のある賠償責任保険を用意していることがある。個人で入るより安いことが多い
- キッチンカーの車両保険に付帯:キッチンカー向けの自動車保険で、賠償責任をセットにできる商品がある
商工会議所の会員になると、団体保険に入れるうえ、その商工会議所が関わるイベントの募集情報も入ってきます。行政イベントに継続して出るつもりなら、地元の商工会議所・商工会の会員になるのは、保険の面でも情報の面でも合理的です。
「加入証の写し」を求められたら
要項で添付を求められるのは、次のどれかです。
- 保険証券の写し
- 加入者証や付保証明書(保険会社が発行する「この人はこの保険に入っています」という書面)
- 保険会社の Web 画面を印刷したもの(認められない場合もある)
証券は加入後、届くまでに1〜2週間かかることがあります。募集を見てから加入したのでは、締切に間に合わないことがあります。行政イベントに出るつもりがあるなら、募集が出る前に加入しておくのは、営業許可と同じです。
また、保険期間が出店日をカバーしているかを確認してください。イベントが来年2月で、保険が今年12月に切れるなら、更新の予定を書き添えるか、先に更新しておきます。
補償額はいくらにするか
要項に「対人1名あたり○円以上、1事故あたり○円以上」と最低額が書いてあることがあります。書いていなくても、対人・対物とも1事故あたり1億円程度を目安にしておくと、多くのイベントの条件を満たします。食中毒は複数人に及ぶので、1名あたりの額だけでなく、1事故あたりの総額が重要です。
補償額を上げても保険料の増え方は緩やかなので、最低限で組むより、少し余裕を持たせるほうが安心です。
まとめ
- PL 保険は「売った物が原因の事故」を補償する。テントの転倒や転倒事故は対象外
- 実際に入るべきなのは、PL と施設賠償がセットになった事業者向け賠償責任保険
- 保険料は年数千円〜2万円程度。出店料1回分より安い
- 証券が届くまで時間がかかる。募集が出る前に入っておく
- 商工会議所・商工会の団体保険は、安く入れて情報も入る
事故は起きない前提で出店しますが、起きたときに事業をたためるほどの額になるのが賠償です。行政イベントが加入を求めるのは、出店者を守るためでもあります。